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第4話 足掻き 【中編2】

2007/02/02 17:58

「それで、フレイの聞きたいことってなんなんだ?」

真剣な表情でカガリはフレイの顔を見つめて問う。
すると、一度ちらりと言いにくそうな表情を見せた後、フレイは静かに口を開いた。

「キラのこと、カガリはどう思っているの?」

「キラ?」

予想外の人物の名がフレイの口から出たことにカガリは驚いて言った。

「そうよ。カガリにとってキラはどんな存在なの?」

再び真剣な表情で聞かれる。

「待ってくれフレイ!その話と私の婚約の話と一体どんな関係があるんだ?」

素っ頓狂なカガリの反応にフレイは小さく溜息を吐いて言う。

「はぁ…カガリ、あんたキラとカガリの関係についての噂、聞いたことがないの?」

「どういうことだ?」

心底不思議そうな顔で聞かれ、フレイの顔はますます顰められた。
「あんたって子は…」という台詞が滲み出る表情にカガリはなんだか申し訳ないような、反発したいような気分になった。

「な、なんだよっ!だいたい本人の前で堂々と噂する奴なんていないだろっ!」

「それにしたって…あんた、疎すぎるわよ。」

睨むようなフレイの目にカガリは一瞬怯む。しかし次の瞬間、フレイは諦めたように話を続けた。

「まぁいいわ。カガリがこういう関係に疎いのは周知の事実だし。
あのね、キラはいずれカガリと一緒に国を治めていく人の候補に一番近い人物だって噂されていたのよ。」

「…ってことは…何だ?」

「もうっ!一々反応が鈍いわねっ!つまりキラがカガリの婚約者の位置に一番近かったってことよ!」

知らなかった事実をいきなり突きつけられ、カガリの思考は一旦停止する。
しかし、フレイのヒステリックな声に無理やり引き戻される。

「ちょっとカガリ、聞いているの!?」

「え?あぁ…。でもお父様はそんなこと一度も私に言ったことはなかったぞ?他の皆だって…」

「そりゃあね、まだ正式には決まっていなかったけど…でも普通に考えたらキラが1番適切な人物じゃない。
宰相の息子っていう肩書きがある上頭もいいし、武術にも他の人より群を抜いているし。
何より経験があるもの。キラより国を治めていくに相応しい若い人物はいないわ。今のところ。」

「そ、そうなのか?」

「そうなのよ!全く…なんであんたは…」

そこまで言って、フレイはふと気付いた。

「ねぇ、カガリ。」

「なんだ?」

そ知らぬ顔をして言うカガリにフレイはどことなく冷たい、けれど花のように艶やかな笑みを浮かべて言った。

「あんた…私に嘘吐いているでしょう。」

その瞬間、カガリの身体がぴくりと傾くのをフレイが見逃すはずもなかった。

「カガリ、知っていたんでしょう?キラがあんたの婚約者になるだろうっていうこと。」

その問いにカガリはしばらく答えることができなかった。












2006.6.6.Tuesday 12:06

第4話 足掻き 【中編1】

2007/01/22 18:21

しばらく、陽だまりに包まれた心地よいテラスには到底そぐわない重い空気が漂う。
が、それを一層するかのようにカガリは急に立ち上がった。

突然響いた大きな音と唐突なカガリの行動にフレイが目を丸くしているとカガリはそのままずんずんと進んでいく。
しかし、明らかに逃げるつもり(少なくともフレイにはそう見えた)のカガリをフレイが許す筈もなかった。

「ちょ、ちょっと待ちなさいカガリ!!」

「うぎゃっ;」

怒りに身を任せ、勢いよく歩き出したところをいきなり後ろからスカートの裾を思いっきり引っ張られ、カガリは蛙が潰れたような泣き声を発して顔面から床に突っ伏した。

ビターーンと小気味いい音がテラスに響き、その音で傍の木々にいたらしい小鳥たちが一斉に飛び立つ。

「いきなり何するんだフレイ!!」

カガリは顔の痛みと恥ずかしさのため顔を赤らめて抗議する。
が、フレイはそれを綺麗に無視し、力の抜けたカガリを無理やり立ち上がらせると、再度椅子に座らせて自分も座ると、
丁寧に紅を塗った唇を上げ、極上の笑みを浮かべて言った。

「カガリ、このまま私に何も言わずに去るなんて失礼すぎると思わない?」

綺麗だけれどどこか凄みを帯びた笑みにカガリは冷や汗が出るのを感じた。

「あとで絶対話すから今は少し待ってくれ!私は今すぐお父様に会いに行かなくちゃならないんだ。」

「あとで、なんて信用できないわよ!そんなこと言って逃げる気でしょう?」

「逃げないさ!絶対後から話す…」

「後じゃだめなのよ!!」

急に声を荒げたフレイをカガリは驚いて見遣る。
すると、顔を横に背け、唇を噛み締めたフレイがいた。
その横顔はどこか泣きそうな顔にも見え、カガリは慌てて尋ねる。

「フレイ…?一体どうして…」

「お願い、カガリ。一つだけでいい。聞きたいことがあるの。
お願いだから答えて。」

理由も言わず、ただ真摯な様子でカガリを見つめるそのの目はいつもない熱を湛えていた。
そう、ちょうどあのとき、カガリを見つめたキラのように。
そして、それにカガリが逆らえるはずもなかった。








2006.5.12.Friday 23:26

第4話 足掻き 【前編】

2007/01/22 18:19
よく晴れた昼下がり、日の光が惜しげもなく降りそそぐテラスで2人の少女は向き合っていた。

1人は白磁の肌と燃えるような髪を持つ美しい少女。
そして、まるでサファイヤのような瞳は何かを期待しているようにキラキラと光をはなっている。

それに対し、もう1人の少女、カガリははっきり言ってうんざりしていた。
連日自分の意思を無視し、着々と進められている婚約の準備に。
数日前言い争いをしてからというもの、まともに話してくれないキラに。
そして、何よりも僅かな休憩時間の合間に何度も尋ねてき、問い詰めてくる親友に。

つまり、今のこの状況すべて。


第4話『足掻き』【前編】


「カガリ、一体これはどういうことなのよ!」

先程から必死になって問い詰めてくる親友をカガリは溜息を噛み殺し、花の香りをつけたお茶を上品に啜りながら黙って見つめていた。
その顔は明らかに困惑に縁取られている。

「フレイ、貴婦人ならそんな大声は上げないんじゃなかったか?」

長時間続く同じ質問に堪らず言い返す。
しかし、それでもフレイの口は閉じられなかった。
それどころか挑発だと勘違いしたのか、勢いがさらに高まった気がする。

なんだかこれではいつもと逆の立場になってしまったみたいだ。
そう思いながらカガリはまた一口、お茶を飲んだ。
いつもならなにかしらカガリがやらかし、それを注意するのがフレイの役目。
しかし、今日はまるっきり反対のことが起こっている。
カガリはそれを最初は新鮮だな、などと思い結構楽しんでいたのだが、こうもやられるとだんだん怒るのも億劫になってくる。
今度からいつも自分を叱ってくれるミリアリアやフレイの為に自分も少し気を付けよう、などと心の奥で思っていると、フレイがテーブルをどんっと叩いて抗議する音で無理矢理覚醒させられた。

「な、なによっ!カガリが言えることじゃないでしょう!?それより話をずらさないで!」

今までにない権幕でまくしたて、今にも真正面から突っ込んできそうなフレイにカガリは慌てて立ち上がり答える。

「ちょ、ちょっと落着けってフレイ!だから話せることなんてなんにも…」

手をぶんぶん振りながら一生懸命カガリは言う。が、それでフレイが収まるはずもなく…

「落着けって言われたってそんな簡単に落着ける話題じゃないわよ!一体どうゆうことなの!?
この前まで結婚のけの字も望んでなかったカガリがいきなり結婚なんて…。
しかもザフトの王子が相手なんて…私はてっきりキ」

「…えっ!?私が結婚を望んだなんて誰が言ってたんだ!?私は第一認めてない!」

自分が一番聞きたかったことを遮られ、フレイは一瞬むっとなるが、それを抑えて口を開く。

「ちょっと!私にまで嘘つかないでよ、カガリ。なんでも言い合う仲じゃないの。」

「嘘なんかついてないさ!!私はそんなこと承諾していないし、ましてや…」

さらに言い募るカガリだったが、フレイは心底怪訝そうに自分を見つめている。
何か不穏なものを感じ取ったカガリは逸る気持ちを抑え、一度口を閉じた。

「でも…じゃああの国に出された御布令はなんだっていうの?それすら嘘だって言うのかしら?」

「…御触令?」

語尾に思いっきりクエスチョンマークが付いているカガリの反応にフレイは首を傾げ、さらに説明を続けた。

「えぇ。脆かったザフトとの絆を強くし、さらなるオーブの繁栄の為にザフトの王子と自分は結婚する。そして同時に同盟を結ぶと。カガリの名で書かれてあったらしいわよ。」

「その…らしいとはなんなんだ?」

「私は直接見ていないもの。行くわけないでしょ?なんで私が自分の足でそんな所にいかなきゃならないのよ!」

「それは分かってるさ!フレイが行くのはせいぜい服の為だろ?」

半眼で呆れた表情のカガリに見つめられ、フレイは一瞬怯むが、空咳を一つ吐いて先を続けた。

「あぁもうそんな話は今はいいの!とにかく、今日ここに来る途中コニールに会ったの。孤児院の御使いの途中、街に寄ったらしくて…そこでこの話を聞いたって訳。」

「コニールに?」

予想外の名にカガリは驚くが、フレイは気にせず説明を続ける。

「えぇ。あの子はしっかりしてる子だから。間違った情報じゃあないと思うけど。」

「あぁ…それは分かってるけど。それって本当に私が言ったことになっているのか?」

いつになく真面目な顔で問われた質問にフレイはそんな雰囲気を吹き飛ばすように答えた。

「当ったり前じゃない!なに?違うの?」

キョトン、とした表情で聞きかえすフレイだったが、カガリの目にはもう目の前にいるフレイの姿は見えていない。

「まさか…お父様、が?」

「カガリ?」

突然、自分の目の前で悶々と悩み始めた親友の口からいきなり飛び出た単語にフレイは驚いて肩を揺さぶる。
しかしそんな軽い振動でカガリが気付くことはなく、返答はなかった。

第3話『金の姫とピンクの妖精のウワサ』【後編】

2007/01/22 18:15

「なんで見てないんだよっ!全く本当にお前って奴は…;」

「『お前』の婚約者なんだぞ!?それをちゃんと自覚してるのか!?」

呆れきった声と顔で2人に同時に言われ、アスランは少し不機嫌になりつつ答える。

「いや…俺は別に顔なんてどうでもいいと思っているし…。」

ぼそぼそと言い訳をするアスランに言いようのないもどかしさを感じ、ディアッカは身を乗り出して抗議した。

「お前は馬鹿か!?どーせどこの国にも性格がいいお姫様なんていないさ。
いつも人々に傅かれて、甘やかされて…。そんな中で育った女なんてみんな碌な者じゃない。
だからオヒメサマのマシな所は顔しかないんだよ。」

飄々と何気なく失敬なことを言うディアッカにイザークはなんだか言い訳をしなくてはいけない気持ちになり、口を挟む。

「おいディアッカ!そこまで言うことはないんじゃないか?
中にはちゃんとした姫だっているだろう。」

「…例えばラクスとかか?」

ワインを飲みつつさらりと言ったアスランにイザークは思わず返事を返す。

「そうだ。ラクス様は……っておいぃぃっ!!!!何を言わす貴っ様ぁ!!!///」

またもや余計なアスランの一言で始まったイザークの暴走を止める為、ディアッカは慌てて口を開いた。

「まぁまぁ落着けって!イザーク。それより…」

にやり、と妖しく微笑むディアッカをアスランとイザークは顔を見合わせて怪しんだ。

「…なんだ?」

「じゃあ今見てみようぜ!そのアスランの婚約者ってのをさ!」

まるでこの上なく面白い玩具を見つけたような子供の顔で言われ、アスランは一瞬軽くしかめっ面になる。

「そんな見世物にするようなものじゃないと思うが…」

「ごちゃごちゃ言わずに見せろって!な?イザークも興味あるよなぁ?」

にやにや笑いながら肩を組んで言われた言葉にイザークは「まぁな…そんなに言うなら見てやらんこともないが?」とふんぞり返って答える。
それを見て、アスランは苦笑しながら観念して懐に手をやった。

「分かったよ。ほら、これだ。」

そう言って机の上に出されたのは一枚のポートレート。
よく見る為にイザークとディアッカは椅子を寄せ、身を乗り出す。

するとそこには……




その1枚のポートレートに映っていたのは1人の少女だった。
年は15、16くらいだろうか。
ひと目で王室で1番豪華な一室だと分かる部屋でごてごてと装飾された椅子に背筋をピンと伸ばし、上品に腰掛けている。

一言で言えば、彼女はとても綺麗な少女だった。

髪は長く艶やかで、腰につくかつかないかぐらいの長さ。
目はほんの少しつり気味で勝気そうに見える。
だが目鼻は理想的な位置に配置されており、それだけ見れば非の打ち所がない、非常に整った容貌だ。

ただ、一つのことを除いては。

そしてそれは何かというと、どうにも形容しがたい表情だった。
平たく言えば…ひどい『顰め面』だ。


1・2・3……

写真を見てから3秒、3人の動きはぴたっとものの見事に止まっていた。
しかし、ディアッカの噴出しを合図に、2人は大声で笑い出した。

「あっはっはっは!!!!なんだこの写真!本当にこれ見合い写真のつもりか!?!」

目に涙まで溜めてディアッカが言うのに、イザークは笑いを必死で堪えつつ返す。

「ディ、ディアッカ!そんなに笑ったら失礼…ぶっ!!」

「なんだよ~!お前も笑ってんじゃん!」

楽しそうに笑う2人とは対照的にアスランはまだ写真を凝視したまま停止していた。
そのままぴくりとも動かないアスランに2人はさすがに心配になって、肩を揺さぶって心配する。

「おい、アスラン!大丈夫か?」

がくがく揺すられてそこで初めて気付いたように困惑した表情を見せるアスランに2人は納得したような、同情したような声音で言う。

「お前の気持ちは分かる…でも仕方ない。受け入れろ。」

「そうだ、アスラン。受け入れるんだ。いくらラクス様と天と地ほど違う女だと言ってもだな…」

顎に手を当て、しみじみと言うイザークにディアッカは半分笑いながら言う。

「そこまで言うことないだろ?イザーク。表情抜きにしてみれば結構綺麗な女だぞ?」

「いや…でもこの表情は…!!」

そこまで言ってまた写真を見、再度馬鹿のように笑い出した2人をアスランはただぽかん、と見つめていた。

「いや、あの、俺は…」

戸惑いながらも何か言おうとするアスランだったが、その口を後ろから多少無理な姿勢でディアッカが塞ぐ。

「いや…もう何も言うな、アスラン。お前の言いたいことは分かってるからな!」

「あぁ。ショックだろうが、受け入れるんだ。随分…その…か、堅そうな女性だが貴様の顔なら多分いけるだろう。」

「ま、今日はゆっくり休めよ。ショックだろうがなんとか乗り切れよ!」

「ザフトの王子ならそれぐらいで動揺するな!あと、明日は1人でラクスの所に行って謝るんだぞ!?分かったな!?」

そこだけ強く念を押してイザークは言い、ディアッカは使用人たちに声をかけ始めた。

「はいはい!ということで、今日はもう皆これで下がってくれ!」

手をぱんぱんと小気味よくと打ちながら言われて、なんとかして欠片でもいいから王子の新たな婚約者を見ようとしていたメイド達は一斉に残念そうな顔になる。
そんなメイド達の様子を見、ディアッカは悲しそうな表情を作って、まるで役者のような口ぶりで言った。

「今のアスラン様は傷ついておられるんだ。
今ぐらいは…そっとさせておいてくれないか?」

「は、はいっ!承知致しました。」

ディアッカの不気味なまで丁寧な演技に気圧されたのか、メイド頭はどもりながらも頷いて返す。

「じゃ、また明日な。」

「おいアスラン!明日は絶対ラクス様のところに…!!」

「おい、もういい加減言い過ぎだぞイザーク!!」

言い争いながらすたすたと去っていく2人にアスランは1言も返せないまま、無常にもドアは閉められる。
しかも使用人までも連れて。



完全に1人になった部屋は静かで、廊下からはまだ堪えきれないらしい2人の笑いと婚約者の顔をあれこれと予想するメイド達の声が漏れ聴こえてくる。

アスランは数秒間、扉を見つめて溜息を吐いた後、またその問題の写真に目をやった。
するとさっき見た際と1寸も変わらぬ少女が写真の中に。



「…異質、だな。」



一言呟いて一度目を閉じる。頭に思い浮かべて、口元に浮かぶのは微かな笑み。

ごてごてと飾られた部屋と服、少しの隙もないように手入れされた髪や肌。
そんな中、彼女の表情はなんというか…野性味溢れていて。

確かにこのアンバランスさはどこか笑えてくる。
でも、それはディアッカ達のような笑いとは違い、期待を含んだものだった。



「カガリ、か。」



そう呟くアスランの口元には先程より深く刻まれた微笑み。
そしてそれは穏やかで期待に満ちた、どこか優しさを含んでいる笑みだった。






2006.3.19.Sunday 18:49
訂正【2006.3.19.Sunday 23:43】

第3話 金の姫とピンクの妖精のウワサ 【中編】

2007/01/22 18:11
「ラクス嬢とのことは俺が生まれる前から決まっていたことだしな。
それを突然否定されると…戸惑いを隠せないのは確かだ。」

そう言うアスランの目はどこか空虚で、イザークは少し胸が詰まるのを感じる。

「当たり前のようにいつも傍に居てくれた人だったから…いなくなったら、と思うと寂しいな。」

そう寂しそうに呟くアスランは妙に哀愁を帯びており、
それを横目で見ていたメイド達から思わず溜息が毀れる。そして、それは一気に甘ったるい空気で部屋を満たす程のものだった。

急激に変わった部屋の雰囲気にイザークは小さく舌打ちをし、
ディアッカは変な笑いを浮かべてさらにアスラン問うた。

「で?お前が寂しいのは分かったけど、ラクス嬢はどうなんだ?
もう彼女はお前との婚約破棄のことを知っているのか?」

「いや、たぶんまだだろう。」

「だが、俺たちでさえ知っていたんだ。知っている可能性が高くないか?」

「それもそうだな…明日、なんとか時間を見つけて行くよ。」

「そうしろ。ラクス嬢もお前の口から直接聞きたいだろうからな。」


俯き加減で腕を組み、不機嫌な様子のイザークを見てアスランはふと、不思議に思う。

確かにイザークはいつも眉根に皺を寄せて不機嫌な表情を装ってはいるが、それは見せかけのようなものだ。
本当は優しくて面倒見が良いのに、無理に意地を張っているところがある。
長年付き合っていれば分かることなので、まぁそれはいいのだが、今はどこか様子が違った。
不機嫌の中に微かに怒りを感じ取り、アスランは直球に聞いた。

「…イザーク。さっきから思っていたんだが、なにを怒っているんだ?」

急に言われてイザークは内心驚くが、慌てて冷静を装い露骨に顔を顰める。
変なところで敏感なアスランにいらつきそのまま無視してそっぽを向いた。
が、それに全く頓着せず、反対に見つめ返すアスランにディアッカは仕方なさそうに口を開いた。

「まぁな~なにせイザークはラクス嬢の大ファンだったからなぁ。
くやしいんじゃないか?それをスパッと切るお前が。」

「なっ、なっ、何を言っている!!ディアッカ!!俺はそんな…」

親友の口から飛び出た思ってもみなかった言葉にイザークはバネのように反応した。
しかし、そんなイザークの心情も露知らず、2人は流れるように会話を続ける。

「イザークは、ラクスのことが好きだったのか?」

「だから違…!」

「そうそう!酔った席では『理想の女性だ!』なんて豪語してたぞ。」

「確かに…そう言われてみればラクスのコンサートにはいつもイザークがいたような…」

「だろ?そんな追い回す程好きだったんだぜ、きっと。」

そう言ってディアッカは上手そうにグラスの中身を全部飲み干す。
その間もなぜか話す機会を失ったイザークは口をぱくぱくとさせるばかりだ。

「そうなのか…悪かったな、イザーク。お前の気持ちを考えてやらずに…」

見かけだけはさも誤っているかのようなアスランの表情にイザークはついにきれ、机を拳で叩いて叫んだ。

「違うと言っているだろうがぁっっ!!!!俺の話も少しは聞け―――――っ!!!」

「照れるなよ、イザーク。」

「そうそう。俺達には隠さなくていいんだぞ?」

必死で溜めていた怒りを笑って一言で往なされ、イザークは毒を抜かれたようになる。
あまりのあっさりとした対応にらしくないながらもちょっと落ち込んでしまう。
そんなイザークを知ってかしらずか、さらにアスランとディアッカの会話は続く。

「んで?その『宮廷の花の中の花』と讃えられるラクス様を退け、
お前の妃になるようなお方はどんなお人なんだ?」

「随分と皮肉な言い様だな?ディアッカ。」

苦笑を堪えきれない表情のアスランにディアッカは肩を竦めて答える。

「別に。ただ純粋に気になっているだけさ。
アスラン、お前パトリック様にポートレートなり、絵なりもらってないのか?」

「あぁ。もらったぞ。」

どうでも良さげに言うアスランに2人は溜息を吐く。
この『王子様』は有能で頭も良く、格好もそれなりだがこっち方面はとんでもなく疎い。
いや、イザークが言うのもなんだが。

「で!どんな女だった?肉惑的に魅力的な俺好みの女か?それともイザーク好みの清楚な方か?」

気を取り直して興味津々を装い、ディアッカは聞く。

「…!!!」

再び憤怒の表情になりつつあるイザークをちらりと見、アスランは答えた。

「…まだ見ていない。」

「………は?」



しばしの沈黙の後、2人は頭を抱えて同時に言う。


「お前って…本当に…はぁ。」


そんな2人をアスランはただ、不思議そうに見つめ返すだけだった。






2006.2.28.Tuesday 17:55